本サイトでは”現役スポーツアナリスト”の「日々の学び」をブログとして残していきます。
昨今スポーツ界、とりわけラグビー界では薬物が問題になる。なぜって薬物でもそうでなくても、人々はスポーツ選手に過剰な「インテグリティ」を求めるからだ。
法で禁止されている以上、「大麻の合法化を認めろ!」とかそういった意見はわたしにはない。しかし、麻薬は近代国家によって法で禁止されているから麻薬なのであって、薬になることもある。そう思うと、歴史記的に文化の中で栽培している人たちに罪はあるのだろうか?という疑問がわく。この本はその疑問に対して答えをくれた。
『使える語学力 7ヶ国語をモノにした実践法』の作者橋本陽介さんの推薦図書だ。
高野秀行
日本のノンフィクション作家、翻訳家。東京都八王子市出身。
「誰も行かないところへ行き、誰もやらないことをやり、それを面白おかしく書く」をモットーとしている。
(Wikipediaから引用)
ジャーナリズム的な発想ではなく、現地の人と一緒にアヘンを栽培し、収穫するというハイパーハードボイルドを簡単に超えてくる話だった…
善悪の彼岸と偏見の霧
ビルマ=ミャンマーの山岳地帯に「ワ人」が収めるほぼ独立国家「ワ州」がある。世界のアヘンの大半を作る「ゴールデントライアングル」の中心地だ。(この州の政治的・歴史的な説明がかなり複雑なので割愛する)
筆者は、麻薬組織の秘密情報や流通網を暴くジャーナリズムを
「木を見て森を見ず」という戒めに忠実に従っているのだろうが、悪くすれば「森を見て木を見ず」の姿勢ともなる
ということからアヘン生産の中心地、ワ州へ行き、現地の人々とともにアヘンを栽培し、収穫し、しようする。その体験談が本書。
メコン川を隔てて、中国とワ州が分断されている。それを著者は「善悪の彼岸」と呼びます。一方ではアヘンで生計を営み、中国ではアヘンで命を落とす、と。
文化的には前近代的なワ州の中で(民間療法と祖先を祀る土着信仰)、アヘン栽培を通じてワ人を見た著者は最後にこう言う。
ワ州は存在だけが「善悪の彼岸」にある
そして、ワ州には常に「偏見の霧」がかかっているらしい。ビルマ政府の陰謀?もあり、歴史としてワ州を発った直後に、ワ軍はアメリカに麻薬カルテルと認定される。
本書を読み進めるとこの言葉の意味がわかるのでぜひ読んで欲しい。徐々に村に肩入れしていく著者の気持ちがとてもよくわかる。
アヘン栽培・収穫・吸引
アヘンの育ち方、育て方、収穫方法までこの本を読んでよくわかった。村での生活が衛生的にきつそうで読んでる方まで鳥肌が立つ笑
ネタバレすると、著者はアヘン依存症になる。ここの過程と、特にアヘンを吸う人が「廃人」になるという歴史の教科書でよく聞く表現の体験談がめちゃくちゃで面白かった。
これです。資料集とかに載ってるやつ。この絵だと「廃人」に見えるが、吸うとむしろ吸う前より元気になるという話はヒロポンと重なる
アヘンとは切っても切れないモルヒネの話も途中に出てくる。薬物と薬の境目はかくも曖昧だ。
今度来たらな、アヘンを吸ってもいい。いくら吸ってもいいぞ。俺が許す。だから、また来いよ!
という文章で不覚にも感動してしまった… アヘン吸いの絆の物語っぽくなる瞬間もあって笑いあり涙あり。「無言・無感情・無関心」の絆。
終わりに
繰り返しになりますが、薬物への賛成を述べた本ではない。「アヘン」という近代国家に禁止された伝統的作物を通して、「ワ人」という少数民族を描いた秀逸な作品だ。特に日本には民族主義的な発想がわかりづらいので、この本は非常に勉強になる。
あとがきによると、この本の影響でアヘンの講義にばっか呼ばれるそう笑 育て方とか吸い方とか笑 ヤクブーツはやめろ