日々の学び:ジョン・D・スターマン『システム思考―複雑な問題の解決技法』

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「この時代,もっとも不変のことは?」と問えば,その答えは「変化」である。

複雑系について学ぶ中でこの本の内容=「システム・ダイナミクス」にたどり着きいた。途中から説明が丁寧ゆえにまどろっこしく、読み終わるのに時間がかかりましたが簡単にまとめていく。

そもそも「システム・ダイナミクス」(システム思考)とは何か?

システム思考では,「1つのことだけをすることはできない」,そして「すべてのことがほかのすべてとつながり合っている」と理解する。もし人々が全体論的な世界観を持っていれば、「システム全体にとって長期的に何がいちばんよいか」を考えて行動し、システム内で効果的なレバレッジ・ポイントを見出し、システムの抵抗を避けることができるだろう、と言われる。

「システム思考」それ自体の説明がかなり抽象的ですが、要は「物事の一部分を、全体を織り成す一つの要素と考えること」だと解釈している。対極にある考えは「要素還元主義」。

システム思考の開発は,「還元主義にもとづき範囲がせまく短期的な静的世界観を、全体論にもとづく広範囲で長期的な動的世界観に変えて、さらにこれに沿って方針や制度を再設計する」

システム思考を学ぶ上でベースとなる重要な考えをいくつか紹介する。

「システム思考」① 2つのフィードバックループとメンタルモデルの定義

すべてのダイナミクスは、「自己強化型ループ」(正のフィードバック・ループ)と「バランス型ループ」(負のフィードバック・ループ)の、たった2種類のフィードバック・ループの相互作用から生まれる

システム・ダイナミクスで「メンタルモデル」という場合、「システムがどのように機能するかを表す因果関係のつながりの構造」、「モデルの境界範囲(どの変数がモデルに含まれ,どの変数が含まれないか)」、さらに「想定する時間軸の範囲」についての考え方が含まれる。つまり、問題をどのような枠組みでとらえ,考えているかを意味する。

自己強化型ループとは例えば、あるビール会社がシェアの拡大を狙って値下げした時に他の会社もビールの値段を下げようと反応し、さらに価格を下げないといけなくなるようなループのことを指す。逆に軍事力のように、NATOの拡充を見て、ソ連が拡充し、それを見てNATOがさらに拡充する、といった増加を伴う場合もある。

それに対してバランス型ループは、神の手のような話。例えば、物価が上がると、需要が減るとともに生産が増え、それによって在庫が増して過剰在庫を減らすために価格を下げる圧力が高まる、といった均衡に向かって収束していくループのこと。

人々の学習もフィードバックループのようなものと言える。

しかし実際には、ここに「メンタルモデル」が加わってくる。

つまり、現実の意思決定は純粋なフィードバックループではなく、そこに信条や感情、情報の誤認などが常に加わってくるわけだ。

これを

メンタルモデルの変化は、それ以前に自分たちが何を定義・測定・注視することを選択したかによって制約を受ける。「目に見えるものを信じる」と同時に「信じているものが見える」。互いに影響を与え合っているのだ。

と筆者は表現している。


「システム思考」② メンタルモデルに影響を与えるもの

ダイナミックな複雑性と限られた情報によって、私たちの現実世界に関する知識が制限されるため、学習や業績の可能性が縮小する。しかし、私たちは持っている知識を,どれほど賢明に利用しているだろうか? 私たちは、得た情報を最善の方法で処理し,最善の意思決定を行っているだろうか? 残念ながら、答えは「ノー」だ。

例えば、私たちは赤外線や紫外線、超音波といったこの「複雑系」の世界の要素を認識できない。加えて、人間は指数関数的な非線形のモデルや、時間的遅れといった一件「合理的だ」と頭ではわかっているものを正確に認知する能力がない。例えば、規模の経済のような指数関数的な増加・負のスパイラル、物品の在庫を調整するために注文数を変更してからの時間的遅れなどである。

人間が単なる「認知を行う情報処理装置」ではないということだ。私たちは、感情的・精神的な支えを心から必要としている。しかし、科学(コペルニクスの地動説から、進化論、相対性理論、量子力学、ゲーデルの不完全性定理に至るまで)は、「人類は,最高権威が人類のために作った合理的宇宙の真ん中にいる」という昔ながらの心地よい考え方を取り払ってきた。科学的な考えは多くの人々にとって、知識や力を与えてくれるものではなく、想像を絶するほど広大な宇宙のなかで人間がちっぽけな存在であることの不条理さや実存的不安を生むものであった。

この辺りはスピノザに近い部分があってなかなか興味深い。

「システム思考」③ フィードバックループとダイナミクスの挙動パターン、

※本書より抜粋

このように現実に起きるダイナミクスにはいくつかの挙動パターンがある。例えば指数的成長やS字型成長は、自己強化型ループの最たる例だ。S字型は指数的に成長した後、市場の大きさの限界から収束していく様子を表している。

「振動」はバランス型ループ内の各フィードバックに「時間的遅れ」が発生するときに起こる。例えば、品薄のため大量に発注すると、届く頃には需要が薄れて大量の在庫を抱え、次の発注量は少なくなる、といったようなもの。常に均衡を求めて振動しており、当たり前ですがバランス型フィードバックループの目的はこの振動を0に近づけることだ。

そして振動にはさらにパターンがある。その前に「カオス」の説明をしておくと、「カオス」は異なるダイナミクスの組み合わせによって起きるもので、決して謎めいた理論ではない。一つ一つの「振動」を理解すればカオスの理解も深まるはず。

カオスはこれまでの科学とはまったく異なる最新の科学であり、根本的に非線形的かつ複雑なもので、何やら謎めいた新理論を使わなければ説明できない、などといった大げさな主張もなされてきた。こうした戯言には十分注意してほしい。ダイナミクスの理論におけるカオスという用語には、厳密に定義された専門的な意味がある。

振動のパターン① 減衰運動 : 局所的な安定

ブランコや振り子のようないつかは動かなくなるようなダイナミクスのこと。

減衰する振り子の均衡状態を、「局所的に安定している」と言う。摂動によってシステムが振動するものの、最終的には同一の均衡状態へと戻ることを指す。

あくまで「局所的な安定」であり、振動によってシステムが振動してもいつかは均衡状態に戻る、という意味。

振動のパターン② 拡大振動とリミットサイクル

均衡が極めて不安定な場合、少しの衝撃でシステムが大きく動く。例えば丘の上のボールは山頂から少し突かれれば、自己強化型ループで速度を上げながら丘を転げ落ちていく。

均衡状態が不安定なのだ。均衡状態が局所的に不安定であっても、現実のシステムではどんなものも「大域的には安定」していなければならない。大域的な安定とはつまり、システムの軌道が無限にそれていったりしないことを意味する。

ただそんなボールもいつかはふもとについて止まる。無限に転がり落ちることはできない。

振動するシステムの均衡状態が局所的に不安定であるとき、システムがその均衡点から少しでもはずれると、その振幅はどんどん大きくなるが、最終的には種々の非線形性によって制限されることになる。こうした振動は、振幅を抑える非線形的な制限(リミット)にちなんで、「リミットサイクル」と呼ばれる。リミットサイクルでは、システムの状態が一定の範囲内にとどまっている(状態空間内の一定の領域に限定されている)。最初に受けた摂動の影響が消えて、安定した状態に至った後,リミットサイクルは、状態空間内のある特定の軌道(「閉曲線」)を描く。この安定した状態の軌道は、「アトラクター(引きつけるもの)」と呼ばれる。ちょうど減衰振動を見せる振り子の振り玉が安定した均衡点へと引きつけられていくように、軌道がアトラクターに十分近ければ,そこへと向かっていくからだ。

ボウルのどこかに落ちたビー玉は、(最初はしばらくの間,ぐるぐる回っているかもしれないが)最後には底の部分で動きを止める。均衡状態は経路依存ではない。ビー玉はボウルのどこに落とされても、そして初期速度がどのくらいであっても,同じ場所で動きを止める(それがボウルのなかにある限り,つまり均衡状態が局所的に安定している)。安定した均衡状態は、すべての点がそこに引きつけられるので,アトラクターとも呼ばれる。厳密に言えば、この均衡状態は,全体的ではなく局所的な安定なので,これは、そのアトラクターの影響の及ぶ範囲のなかにある点のみにとってのアトラクターである。アトラクターの影響の及ぶ範囲はこのボウルだ。その内側では、すべての点がボウルの底にあるアトラクターに向かう。ボウルの外側では異なるダイナミクスが働いている。

この「アトラクター」と呼ばれる言葉、フランス・ボッシュの書籍に頻出する。この言葉の本来の意味を学べて本当に良かった。

「システム思考」④ 時間的遅れを生む要因 : ストックとフロー

人の意思決定を含むあらゆるシステムはインフロー = 流入とアウトフロー = 流出、その差によって生まれるストック = 蓄積、の3要素がある。ストックがシステムにとって重要な理由はいくつかある。

ストックは、
①システムの状態を特徴付ける。
②システムに慣性と記憶を与える。
③遅れを生み出す。
④インフローとアウトフローを吸収し、切り離す。

①飛行機の燃料のようにそのまま特徴になるよね、ってこと。
②アスベストのように一度ストックとして蓄積すると継続=慣性を与え、人の信条のようなものは人の意思決定に常に連続性を生む。
③④インフローがストックに吸収され、アウトフローとして出るまでに時間的遅れが発生し、インフローとアウトフローが必ずしもイコールではなくなる。商品の在庫事情というだけで、客からの注文数・在庫・商品生産ラインへの発注数と複雑に絡み合っていく。

これは意思決定も同じで、情報=インフローに対して、先入観・信条や決断するために熟考する時間といった心理状態=ストックが働き、意思決定=アウトフローに時間的遅れをもたらす。

まとめ

・システムは、自己強化型ループとバランス型ループという二つのフィードバックループとインフロー・ストック・アウトフローの3要素が組み合わさって構成されている。
・フィードバックループにはダイナミクスの挙動パターンが存在する。
・インフローとアウトフローはストックを介して「時間的遅れ」を生む。
・人間の意思決定の場合、ストックは個人・組織のメンタルモデルとなる。

所感

以上が「システム思考」を理解するための基礎知識なのだが、本書の10%にも満たないような内容。以上の考えを使った大量の具体例が登場する。(読み終わるのに時間がかかった理由)

ビールゲームを使った例などが出るが、個々人は最適な解を下すのに全体としては最悪な結果を生む、という実験は非常に興味深い。いつかビールゲームやってみたいな、という気持ちと自分が今働いているチームでこういった個々人の努力が最悪な結果を生む、といったことを避けられるように頑張っていきたい。

知識ではなく学習が、持っているものではなくそこに至るプロセスでの行動が最高の喜びを授けてくれる。

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