本サイトでは”現役スポーツアナリスト”の「日々の学び」をブログとして書き残していきます。
物語論が好きなので、「物語」とか「ストーリー」という言葉に弱い。そんなわけで拝読。
楠木 建
東京都目黒区生まれ。南アフリカ共和国ヨハネスブルグで子供時代を過ごす。1987年一橋大学商学部卒業。1989年一橋大学大学院商学研究科修士課程修了。一橋大学商学部専任講師、同助教授、一橋大学イノベーション研究センター助教授、ボッコーニ大学ビジネススクール(ミラノ)客員教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科准教授を経て、2010年より現職。企業が持続的な競争優位を構築する論理について研究している。
(Wikipediaより)
戦略は「ストーリー」
「理屈じゃないから理屈が大切」
楠木建『ストーリーとしての競争戦略』
外側から見ている学者に対して、経営に関わる当事者はけもの道を野生の勘とともに走っている人と筆者は例える。野生の勘が何を意味するのかというと、「理屈」と「理屈じゃないもの」を分ける嗅覚だそう。
「こうやったらブランド力が向上する!」というような法則〜。〜法則とは、どこでも成り立つ、どんな文脈でも再現可能な一般性の高い因果関係を意味しています。
楠木建『ストーリーとしての競争戦略』
経営は「科学」ではない以上、抽象化された法則によっての意味づけができない、ということだ。普遍の法則があれば8割の気合と2割の理屈を全て説明できてしまう。この考えはすごい納得した。やっぱり自分もそうだが、人間である以上絶対正解の答えを求めてしまって、1人でもやもやすることが結構よくある。その本能ゆえに普遍的か最適解を求めてしまうのだろう。
「違いをつくって、つなげる」、一言でいうとこれが戦略の本質です。
楠木建『ストーリーとしての競争戦略』
戦略なり経営というものはどこまでいっても、その会社や事業の特定の文脈に埋め込まれたシンセンスであって、さまざまな断片をつなぎ合わせた総体として初めて意味を持つ。
楠木建『ストーリーとしての競争戦略』
そもそも普遍化された法則をみんな活用できれば違いは生まれない。そして成功した会社には必ずその選択をしなければならなかった「文脈」とそれが特殊解であった背景が必ずある。そういう意味で戦略や経営というものは「ストーリー」と絶対に切り離せないものだと筆者は言う。
つまり成功例は必ず筋の良い「ストーリー」を持っていてそれを戦略を支える因果論論理や一貫性が非常にしっかりしているというわけだ。そして「ストーリー」のある戦略は特殊性があり、時間がかかり、他社が追随できないというメリットが副産物的に生まれるわけである。むしろ真似するときに他の企業が「木を見て森を見ず」状態になりかえって損をしてくれるということもよく起きるとか笑
本書の中で夏目漱石『夢十夜』の話が出てくる。(ちなみに夢十夜は青空文庫で読めます。)
「なに、あれは眉や鼻を鑿で作るんじゃない。あの通りの眉や鼻が木の中に埋うまっているのを、鑿のみと槌つちの力で掘り出すまでだ。まるで土の中から石を掘り出すようなものだからけっして間違うはずはない」
夏目漱石『夢十夜』
そもそも価値を作り出すのではなくて、もともとある価値を見つけてコンセプトを作るということが良いストーリーに直結するという話には唸った。やはり文学や芸術、ビジネス全てに共通点があるのだな、と。その考え自体は抽象的すぎるので、「ストーリー」が必要なわけだが。
ストーリーの評価基準
ストーリーはその「強さ」「太さ」「長さ」が優れているほど、優れたストーリーだと筆者は述べる。
強さ = 因果関係の尤もらしさ
太さ = 各戦略の因果関係の連鎖の数
長さ = 持続可能で、成功が成功を呼ぶようなループ
これらを軸に本書はケーススタディを進めていく。どれもこの軸で見ると納得のいくものだし、かなり勉強になった。
一見して非合理 – 持続的な競争優位の源泉
この章が一番影響を受けたので最後に感想を記しておく。
つまるところ、誰でも簡単に模倣できることはあくまで一時的な優位にしかならない、ということは非常に耳が痛い内容だった。やはり時間のかかることに早いうちに取り組まないといけない。
そして非合理が合理的、という考え方、とても好きだ。周りがやってるからやるは理由にならない。優位を取るためには常に「キラーパス」が必要だからだ。学生時代、数学から逃げていたことを今とても後悔している。もっとも時間的先行によって優位を保つことも大事だが、一見役に立たなそうなことにもしっかり時間を割いて今から取り組もうと思う。
終わりに
結論としてはあまり「物語論」とは関係なかったが、ビジネス書としてとても良い本だった。ビジネスにおける「ストーリー」とその構成要素の具体例がかなり多く出てくるので、いわゆる普通のビジネス書とは一味違ったケーススタディができると思う。「絶対成功する法則!」に惑わされないようにしつつ、「文脈」と「ストーリー」を大事にしていこうと思う。
「それは個人の「欲」です。「夢」という言葉を使わないでください」
楠木建『ストーリーとしての競争戦略』