「複雑系」関係のおすすめ本リスト
※2023年8月30日更新
ジョン・D・スターマン『システム思考―複雑な問題の解決技法』
ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方』
都甲潔『自己組織化とは何か ―自分で自分を作り上げる驚異の現象とその応用』
以下本編
予習に使った本
読む大前提として、この本は4割が筋トレの話だが6割は筋トレというより認知科学とか哲学的な話になっている。筋トレの知識があっても「複雑系」「自己組織化」「ダイナミックシステム」「アフォーダンス」を理解していないとおそらく読むのが厳しいので、自分は予習として以下3冊+英語での要約サイトを先に読んだ。(その時点で4ヶ月かかった笑)
ジョン・D・スターマン『システム思考―複雑な問題の解決技法』(知らない間に電子版が消えていて、絶版になっている?)
ドネラ・H・メドウズ『世界はシステムで動く ― いま起きていることの本質をつかむ考え方』
佐々木正人『アフォーダンス入門』
各章ごとにまとめようと思ったが、力尽きたのでまとめは第一章のみ。あとはざっくりとまとめる。
Strength training and coordination ①力と速度の基本概念
ここ数年「複雑系」に繋がる本を多く読んできた。というのも、サッカーを始めフットボールは全て「複雑系」のスポーツだからだ。実はラグビー界では「複雑系」がメジャーになる可能性が数年前にあった。
【乾坤一筆】パワーを組織で覆す!エディー・ジャパンの挑戦 オランダ人のフラン・ボッシュ・スポーツ科学コンサルタントは、バイオメカニクス(生体力学)の研究者だ。人間の筋肉の動きは、www.sanspo.com
2015年ワールドカップ前の始祖フランス・ボッシュの代表アドバイザー就任。ただボッシュのトレーニングというと「スピードトレーニング」の一言で片付けられることが多いが、ボッシュはラグビーだけだなくサッカーにも多大な影響を与えた天才である。「複雑系」の理論をスポーツにおいて「大成」させたといってもいい存在なのではないだろうか。
というわけで第1章のまとめ。
1.1 要素還元主義と複雑系生命システム
還元主義の研究へのアプローチは、かなり批判されてきた。~複雑系システムは、ノイズに対処し、システムが様々な側面で複雑な相互作用を起こすという、異なるダイナミクスの性質があるので、還元主義者のアプローチでは予測価値を見出さない。
~より進歩したピリオダイゼーションに関して、証明されているのは、トレーニングに変化を持たせることが持たせないよりも良いことであるが、1つの変化のあるモデルが他の変化のあるモデルより効果があるということを、研究者はほとんど明らかにすることができていない。
早速複雑系チックな言葉が飛び交う。この章で述べられていることは、トレーニングにおける「複雑系」を定義づける説明で、特に下の語の導入の役割を果たしている。
・「非線形の振る舞い」
・「相転移」
・「自己組織化」
「非線形の振る舞い」はシステム思考にも出てきた。ここでは選手の技術・フィジカルの成長曲線は波を打つ形で向上していくと述べられている。要は単純な直線ではないことが一番重要となる。
「相転移」とはシステムがある状態から異なる状態に切り替わること。例えば、速く「歩く」とどこかのタイミング(安定性を失った瞬間)に「走る」という行為に切り替わる。この二つはフェードインすることはなく、あくまで「切り替え」となる。
「自己組織化」とは、ある目的に対する動作・挙動は逐一一つ一つの神経に指示を出して行っているわけではなく、目的に対して勝手に最適化された行動をとる、ということだ。イワシの大群は大群を作ろうとしているのではなく、隣のイワシの動きを見てそれに合わせている、その集合体としてイワシは大群になる。ボールを投げる動作も同じです。神経の一つ一つがボールを投げようとしているわけではない。この「自己組織化」はアフォーダンスに密接に関わってくる。
1.1.3 ではさらに基本的運動特性を仮定するための2つの重要な言葉が紹介される。
・個々の実体 – 基本的運動特性には実体がなければいけない。これはある特性とある特性の間に明確な区別があることを意味する。
・自動的転移 – 様々な動作パターンの中で基本的運動特性の質的な自動転移が多かれ少なかれ起きなくてはならない。
個々の実体は例えば、「スピード」を無視して「スタミナ」だけを鍛えるのは難しい。自動的転移は、あるトレーニングが競技のパフォーマンスに反映されるべきだという考えだ。この2点から筋力・スピード・コーディネーションを個別に取り扱うことはかなり無理のあることだとボッシュは主張する。
1.2 競技動作への効果的な転移のためのストレングストレーニングの特性
感覚運動リンクが発達するようにする根本的なルールは学習プロセスの一部であり、重要な部分でなくてはならない。~これらはパターンの中心的なもの(完璧な技術)を発見するのではなく、限界を発見し、そのパターンを妨害するものが何かを理解することである。
技術を習得するということは、完璧な技術を発見することではなく、失敗と成功の境界線を見つけることだとボッシュは述べる。ある意味ミスをたくさんさせることとも捉えられるかもしれない。次にボッシュがアフォーダンスの話を取り上げる。
直接的知覚理論は、脳内の意味のない情報を、要求された高度で規律ある複雑な知覚に変えていくことで、この複雑な情報を処理するのではなく、システム(身体)が環境から直接的に高度な規律のある情報を観察し知覚することができると述べている。
目の前に有象無象の単純な情報(形、色、音、光など)が広がっている。それらが複雑に絡み合い私たちが認識している世界を作る。人間の脳はこれらの意味を一つ一つ認識して組み合わせているのではなく、複雑な世界をそれぞれが持つ意味=アフォーダンスのまま認識している。ここでボッシュはトレーニングにはアフォーダンスを持たせなければならないと述べる。
つまり、要素還元的に部分を鍛えるのではなく、アフォーダンスのある状況を設定して要素に分解しすぎないことが重要な鍵となる。
1.3 要素還元主義的アプローチからのスポーツ特異的なストレングストレーニングの慣例
生理学的な話だけの部分なのでざっくりいうと、
小さな可動域の動きの小さな筋力の利用から大きな可動範囲の大きな筋力の利用へと徐々に移行していくことには大きな疑問がある。
小さな筋肉から大きな筋肉に順を追うのか、というとそうでもない。
1.4 スポーツ特異的なストレングストレーニングと運動制御
コーディネーションはとても複雑なもので、非線形なものである。動作は効率って気で効果的で柔軟でなければならいので、動作パターンは非線形なものにデザインされてなくてはならない。線形なものや、中枢制御ではこれを確実にするには柔軟性が足りない。
つまり、トレーニングにアフォーダンスを持たせないといけないということになる。例えば、ただのパス練習は線形的で中枢制御的なものになってしまう。よってパス練習をする際には、パス自体が目的ではなく、別の目的を達成する過程でパスの可能性を環境から読み解き、実行する環境を持ったトレーニングの必要が生まれる。
ざっくりまとめ
制約主導型アプローチの3要素
脳=課題 – 空間的な目標。明確なエンドポイント。
アフォーダンス=環境 – 環境から得られる動作における自由度の調整。視覚情報。
動的な自己組織化=生体 – アトラクター(動作の幹)を深くし、フラクチュエーター(動作の枝葉)を柔軟に利用する。
多様学習の2種類 – 「繰り返しのない繰り返し」
・ディファレンシャルトレーニング : 1つのセッション中に、1つの動作に対して変化を与えながら学習を行う方法。
・ランダム学習 : 1つのセッション中に、異なる多くの動作パターンに変化を与えながら学習を行う方法。
ランダム具合は、結果の知識=KR情報(Knowledge of Results)のまとまりを考える。
雑多メモ
・複雑系⇄還元主義の二項対立。ノイズに対して起こる「自己組織化」とそれによる動作・学習等全てにおける非線形な振る舞い。
・「自己組織化」は中枢を通らず起こる。それを引き起こすためのトレーニング中の「アフォーダンス」設定。
・最も効果的なアプローチとは、動作改善ではなく、適応効果がどれだけ転移(Transfer)し、「一般化」するかどうか。特異化と柔軟さ。
・コンテクスチュアルトレーニングとスキルトレーニングは境目がなくなる。
・プレフレックス(中枢神経に関係なくう結果的な動作の遂行に影響する機会的動作)によるエラー=ノイズ吸収。
・運動学習の肝 : 意図-行動モデルにおけるKR情報フィードバックの重要性と多様学習。「動作は意図によって最も良く制御される」という「行為効果仮説」
・ブロック練習はより良い練習結果を生み、ランダム練習はより良い学習結果を生む。今日効果があったものが、明日も効果を発揮するとは限らない。
・体力-疲労-パフォーマンスの二要因モデル。
この要約だけ見るととてもわかるものではないので、最初に挙げたおすすめ本リストで予習しながら読み進めると非常に分かりやすいと思う。